「回復期のリハビリ」 ST編Ⅰ
転院してすぐ、飲み込みの様子を見に昼食時にSTの担当の女の先生がきた。
麻痺が発症してから少し飲み込みにくくなり、すぐむせ込むようになったと
話していたからだ。ゴクゴク牛乳を飲む様子を見て「ああ、大丈夫ですね」と言って、すぐ出ていった。
また、発症時から呂律が回らず、長男は初めの頃、「何を言ってるか分からなかった」と言うくらい、自分でも話しづらかった。舌も麻痺していたのだ。それから少しづつ回復はしていたが、相変わらずゆっくり話すクセが付いてしまったらしい。STの先生と向き合って、発語の練習を毎日行った。先生は手袋をして、舌を引っ張ったり、綿棒で刺激したりしながら、単語や
ア行、カ行、サ行・・・と繰り返し先生の後に続いて発語して、言いづらい所を何回も練習した。
顔面の筋肉も強張る事があり、例えば、目をギュッと瞑ると、麻痺側の目が開きづらかったり口も麻痺側は弛みやすく、唾が出てしまったりと
明らかに左右差があった。
先生とはよく子供の話をした。
お互いに中学生の息子がいたから、学校の行事についてとか塾の話とか、部活の話とかで盛り上がった。
ある日、先生の息子さんの学校で体育祭があったという話をしてくれた時に、そう言えば、うちの息子も、今年中3になって、中学校最後の体育祭があったはずだが、私が入院してしまい、見に行く事が出来なかったが、いつ
体育祭があったかも知らなかった。そう思うと、申し訳ない気持ちになり、急に涙が出て止まらなくなった。STの先生も急に患者が泣き始めてびっくりした事だろう。
でも、動じる事なく、ティッシュを出しながら、「いいよ、いくらでも使っていいよ」と言ってくれた。感情が溢れてしまうと、普段、我慢をしていることもあり、涙を抑える事が出来なくなっていた。
