ずっと仰向けに寝ているしかなく、人との会話に飢えていた私にとって、リハビリの先生の登場は、一縷の望みでした。
左半身マヒになって、本当に自分の思うように動けないということを痛感していたからです。左腕の存在を時々忘れてしまい、左腕の重さで、肩が痛くなって「あっ左腕、どこに行った?」と探すこともありました。
PTの先生が、「じゃあ、起き上がってみましょう」と言いました。
私は介護福祉士なので、起き上がりの介助方法は知っています。でもいざ自分が介助してもらう側になると思っていたほど簡単ではありませんでした。
まず向きたい方向に顔を向ける。右側に向きました。膝を曲げる。すると先生が、「向きたい方に左手も右手で持っていってください。」
するとスムーズに右向きに寝返る事が出来ました。今までは左手は胸の前には持っていっていましたが、寝返りたい方向に左腕(麻痺側)を持っていくと、こんなに簡単に出来るんだと知り、嬉しくなりました。
起き上がるには、足をベッドから下に下ろします。そして、右手でベッドのサイドレールを持ちながら、肘を着いてゆっくり上半身を起こして行きます。「出来た」入院してから初めてベッドに座ることが出来たのです。
先生が靴を履かせてくれて、車椅子を近くに置きました。
「じゃあ、ベッドのサイドレールをしっかり持って立ちましょう。」
浅く座り直し、お辞儀をするように頭を前に深く下げていく。右手でしっかり柵を握りしめて、右足に体重を乗せ立ち上がりました。
「ゆっくり方向を変えて車椅子に乗りますよ」ドスンと車椅子に座りました。先生が支えてくれていたので、怖さはありませんでした。「乗れた!」
「じゃあ車椅子を動かしてみましょう。」
足をフットレストに乗せ、右手でブレーキを解除。後輪のハンドリムというパーツを操作すると動く事ができます。ですが、片手では上手く動かす事ができません。戸惑っていると、「右足も使ってみて」と先生から言われました。「そうか!足も使っていいんだ」あちこちにぶつかりそうになりながら広いスペースまで移動する事ができました。「慣れるまで練習していきましょう」そして先生が車椅子を押して初めてリハビリ室へ行ったのです。
